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蔵のあるまちVol.2 美食を引き立てる日本酒

[投稿日]2022年09月13日

「はぁ食レポ? 酒は旨けりゃ十分っしょ!」――なぜか開き直る作家・清水浩司

 

 

――食と酒。切っても切れない間柄の二つを存分に楽しむために知っておきたい考え方とは? 作家・清水浩司が、酒蔵に隣接した飲食店を持つ「山陽鶴酒造」で、美味しく楽しく取材しました。

 

 

昔、物書きを生業にした頃、先輩に言われたことがある。

 

「料理と音楽が書けるようになれば一人前だ」

 

どうして料理と音楽なのか? それはどちらも見えないものだからだ。赤い、大きい、丸い、派手な……見えるものなら見たまま描写すればいい。でも料理は盛りつけこそ目で見て書けるが味は見えない。感覚で説明するしかない。甘い、辛い、しょっぱい、苦い……。それは音楽も同様で、うるさい、澄んだ、低く唸るような……と見えないものをなんとか言葉に置き換えなければいけない。しかしこうした感覚的な表現というのはなかなか伝わりにくいもので、ここで優れた書き手は比喩というテクニックを使うことになる。いわく、

 

「海の玉手箱や~」

「雷みたいなギターソロや~」

 

別に後者は彦摩呂さんにならなくていいのだが、つまり見えないイメージを何に重ねてみせるのか、それだけ味や音を正確に伝えるのは難しいってことである。

 

(とかブツクサ言ってるうちに目的地に到着)

 

唐突な前フリからはじめたのは他でもない。今回は味について書かなければいけないのでその予防線である。

連載2回目の「蔵のあるまち」のテーマは日本酒と料理のペアリング。東広島のエッセイを引き受けたからには避けて通れない題材だが、上記のようなことを知っている者としては身が引き締まるところがあった。

 

来たか、いわゆる食レポ原稿。

 

(白い暖簾に墨文字が上品なここが、本日最初の取材先)

 

のたびお世話になるのは西条酒蔵通りの西端にある蔵元「山陽鶴酒造」内に店を構える『くぼまち 割烹しんすけ』。酒蔵を改装しただけあって、店内には貯蔵タンクが置かれていたり、仕込桶のフタがテーブルの天板にリメイクされていたりと雰囲気がある。まさに地産地消というか“蔵産蔵飲”のシチュエーション。今回は店主で料理長の城田慎介さんが「山陽鶴」のお酒3種に合う料理を用意してくれた。料理長の目の前でレポるのか……って、ものすごい重圧じゃないか。

 

1品目――まずは「純米吟醸 花凛」に合わせて蓮根まんじゅう

(コース料理の一例のため単品注文は不可(以下全て))

 

いや、ワタシ文豪キャラを名乗ってるので“文豪=食通”みたいに見られがちだけど全然馬鹿舌で、なんなら日本酒もそんな詳しくなくて……という言い訳を喉元で飲み込んで、蓮根まんじゅうをパクッ。花凛をクイッ。

 

(あれ? めちゃくちゃ飲みやすい…)←心の声

 

(驚きのあまり沈黙。不安そうに見つめる料理長の城田さん。心配かけてゴメンチャイ)

 

日本酒って単体で飲むとキツイ印象があるのだが、食べ物と合わせるとスッキリする。むしろ口を洗いたくて杯が進む。

「食中酒ですよね。お酒が主役にならないお酒というか」と城田さん。

まんじゅうは蓮根をすりおろしたものを一度蒸し、さらに揚げているので食感がカリッ、そしてフワッ。

 

同じく「純米吟醸 花凛」で、広島牛のビーフカツサンドも

(広島牛の内モモ肉を使用。肉の味がしっかりと感じられる)

 

ビーフカツは脂肪が重くない広島牛。酒は脂に負けず、だけどくどくない。こんな日本酒体験は初めてだ。料理は続く。

 

2品目――「生大吟醸原酒」に地穴子の藻塩焼き

(火入れをしてない生の大吟醸は数量限定で、ここでしか味わえないものだ)

 

ウマッ! とにかく穴子がウマイ。香ばしく焼き上げられた穴子と、それをドッシリ受け止める生大吟醸。度数も花凛が13度に対して19度。これも口の中に穴子の味が残ってる間にもう一杯いきたいと思ってしまうんだなぁ。おかわり!

(料理長のお酌で2杯目。取材とは思えない至福のひと時…)

 

3品目――限定の「清酒にごり生原酒」に酒粕チーズ

(えっ、ここでチーズ?)

 

つまみとしてのチーズかと思ったら、『しんすけ』ではコース後半の口遊びとしてチーズを出すという。確かにドライフルーツも入ってデザートのような味わいだ。数種のチーズのブレンドに芳香なにごり酒が合わないワケがない。

 

「最初はお食事の邪魔をしない香りの高くないものからスタートして、だんだん変化を付けて口を遊ばせる感じがいいんじゃないかと」

(リーズナブルで蔵の味が分かりやすい「上撰」も、最初の1杯におすすめとのこと)

 

城田さんの導きにまんまと踊らされて飲んで食ってを繰り返す。優れたペアリングには、飲んだら食べたくなり、食べたら飲みたくなる無限ループな誘惑がある。その結果として、はぁ食レポ? 酒はうまけりゃ十分っしょ!――なんて開き直る文筆家。マアナントカナルデショと懸念事が薄れていくのも酒の効能だ。えーっと、まだ取材続くんでしだっけ?

 

くぼまち 割烹しんすけ

住所:東広島市西条岡町6-9/営業時間: 11:0014:0017:0021:00/定休日:日曜

 


 

「お酒に弱い僕からすると、一杯の美味しさを大切にしたい。だからこそ、お酒は好きなときに好きなモノを飲めばいいと思っています」

 

(食取材を終え、移動したのがこちら。冒頭の発言の主は…)

 

「これは僕個人の考え方ですけど。確かにあちこちで『このお酒に合う料理は何ですか?』って聞かれるけど、みなさんの好きなように自由に飲んでもらうのが一番だと思うんですよね。そもそも僕、そんなにお酒飲めないんです。缶ビールも1本も飲めなくて。だから、飲める一杯はやっぱり好きなお酒がいいですし…」

 

いきなりのぶっちゃけ発言に、ほろ酔い頭はあわてるどころか歓喜した。あはははは、オモシロイ。実食に続いて対面したのはこの酒蔵「山陽鶴酒造」の取締役を務める本永修一朗さん。まだ40手前の本永さんからは“蔵元の人”のイメージを軽やかに裏切る発言がぽんぽん飛び出す。

 

「よく言われるんです、『おまえお酒飲めんのになんで酒屋なんや』って。でも僕が言うのは『お酒は飲むもんじゃなくて売るもんです』と」

「確かにお酒ってすごい人の手がかかってて、米の出来や気温、水温が違う中で毎年同じ味を作り続けるのは非常に高度な技術なんです。それはそれで感動するけど、でもお酒を飲めない人にしてみればそんなのどうでもいいことですからね」

 

うーん、新人類っていうかニューウェーブ。西条って厳格な日本酒原理主義者ばかりだと思っていたけどこんな人がいようとは。ちなみに横に置いてあるお酒のラベルには「TAZ SANYOTSURU」と書いてある。

(たず山陽鶴? ティーエーゼットって何ですか?)

 

「TAZは“とりあえず”の略。新商品の名前を考えてるとき、テレビでDAIGOを見たんです(笑)。僕はラベルのデザインもやってるんですけど、それを作ったのはちょうど映画の『トランスフォーマー』を観た後で」

なんとTGKと書いて“玉子かけご飯”と読ませるが如く、TAZと書いて“とりあえず”と読ませるとは! 日本酒と“DAI語”のペアリング、一升瓶と『トランスフォーマー』のマリアージュってそんなのアリなんですか!?

 

ここにきて私は、先ほどの酒が回ってきたのか、とてもマイルドな気持ちになっていた。本永さんの話を聞いてると、エセ文豪として、にわかグルメライターとして肩肘張って「かくあらねば」と思ってきたことがどうでもいいように思えてくる。もちろんプロのアドバイスにはナルホドと耳を傾ける価値がある。でもそうじゃない自由な感性だってあってよくない? ねえねえ、よくない? お酒って楽しけりゃいいんじゃないかネ~~、どうよ?(←酔払)

 

そんな中、「ちょっと待っててください」といって席を外した本永さんが紙コップに何か入れて持ってきた。これは?

 

「お酒の仕込み水で作った炭酸水です。最近流行りの強炭酸」

 

あ、おいしい。軟水なんだ。水自体がスッキリしてるのもあるし、炭酸が口の中でぱちぱち弾けるのもまた楽しい。

「いま、これで日本酒を割るのはどうかなって考えてるんです。炭酸が弾けるときに日本酒のいい香りも楽しめるし」

 

え、日本酒を割る?

日本酒と炭酸水のペアリング?

 

(驚きすぎて瞳孔が開いてしまった清水浩司with炭酸水!)

 

そんなことこれまで考えたこともなかったし、「やっちゃっていいの?」って思ってしまった。有難く現物を頂戴するのが日本酒ってイメージなのに。

 

「お酒ってハードルが高いものの代表じゃないですか。でも僕はどんな手を使ってでもいいから、とりあえず一回口を付けてもらいたいんです。ウィスキーもずっと大人のお酒だと思われてきたけど、ハイボールで復活しましたよね。それと同じように日本酒も気軽に楽しんでもらえたらって思うんです」

 

(日本酒を語る時とても幸せそうな本永さん。飲めないけど愛してるんですね)

 

ほろ酔いの頭の中に、澄んだ炭酸水が流れ込んでくる。それは思考もぱちぱち刺激する。

ペアリングってことは、つまりコラボレーションってことだろう。異物同士のぶつかり合いってことだろう。

 

今に留まるな。未知に飛び込め。もっともっと混ざり合え――そんなメッセージが聞こえてくる。

 

伝統もあれば革新もある酒蔵通りのチャレンジャーズ。私と東広島のペアリングもさて、豊穣を生むのか、ただの飲んだくれで終わるのかKGT――“乞う御期待”。あ、これはダメな締め方の例ですね。

 

 

 

 

 

 

 


しみず・こうじ/作家・ライター・編集者。1971年生まれ。2019年、小説『愛と勇気を、分けてくれないか』(小学館)で第9回広島本大賞受賞。現在RCCテレビ『イマナマ!』コメンテーター、広島FM『ホントーBOYSの文化系クリエイター会議』パーソナリティなども務める。

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